【歴史遺産コース】STAY HOME期間における歴史遺産の学び方−国会図書館デジタルコレクションを活用する−
今回はそんな祭の様子を文化遺産のデジタルコレクションを活用して、ご自宅で学ぶ方法をご紹介したいと思います。
そもそも葵祭の正式な名称は「賀茂祭」。その名前は、山城国一ノ宮である賀茂別雷神社(上社[上賀茂神社])・賀茂御祖神社(下社[下鴨神社])の例祭であることに由来します。欽明天皇(509~571)のころ天災が多数おこり、その理由が賀茂大神の祟りであることがわかります。そこで神を鎮めるために始められたのが「賀茂祭」です。この祭では、植物の「葵(正確には双葉葵)」がそこここに飾られるわけですが、それは葵を飾り、馬を走らせて、神を迎えるよう神託があったからとか。
※下鴨神社の「流鏑馬神事」については、本学の『瓜生通信』2019年5月31日公開の栗本徳子先生の記事をぜひご覧ください。
https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/515
写真は、昨年(2019年)下鴨神社で行われた禊(みそぎ)の儀へと向かう斎王代です。
勅祭(天皇の勅使が奉幣を行う官祭)として行われていた賀茂祭では、内親王が斎王(さいおう)となってこの祭に奉仕し、祭儀の前には賀茂川で禊を行っていました。戦後は斎王に代わって「斎王代」が民間より選ばれて祭事に参加しており、禊は上・下社にて隔年交替で行なわれています。
さて現代の祭事の中心は五月十五日。まず京都御所にて「勅使発遣の儀」、そして勅使代・斎王代が下社、上社へ向かう「路頭の儀」。各社での「社頭の儀」が行われます。
報道などで、勅使代や従者、そして斎王代などの御使が華麗な服装や車列を組んで両社へと向かう姿をご覧になった方も多いかと思います。
今回はいにしえの行列の姿を見てみましょう。活用するのは国会図書館のホームページにある《国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/ 》です。
国立国会図書館では、これまでに「貴重書画像データベース」、「近代デジタルライブラリー」など、インターネット上での資料の閲覧を可能とするデータベースのサービスを構築してきました。この《国立国会図書館デジタルコレクション》は、それらを統合したものであり、画像以外にも音声や映像なども提供しています。
このデータベースには、国会図書館内や提携する公立図書館内のみで閲覧可能な資料もあるのですが、ここでは「インターネット公開」されているものから検索したいと思います。
さっそく「賀茂祭」と検索ボックスに入力して検索をかけてみます。全部で59件の資料がヒットしました。その中に「賀茂祭絵詞」、「賀茂祭縁起」、「文永賀茂祭図」というものがあります。さっそく「賀茂祭縁起」をクリックしてみましょう。
まず巻子(かんす)と呼ばれる巻物のデジタル画像が現れます。検索時の表題は「賀茂祭縁起」ですが、巻子の題簽(だいせん・題名)には「賀茂祭草子」とあります。さらに開いていきますと、いわゆるくずし字と呼ばれる草書体で書かれた詞書(ことばがき・絵巻に添えられた文章)が綴られたのち、市中の様子を描いた絵が現れてきます。
そして、よく見ますと公達の冠には小さいですが葵祭のシンボル「葵かずら」が描かれています。くわえて藤の花が下がっている勅使の餝車(かざりぐるま)のほか、やはり葵を飾る女使(もとは斎王)の牛車も描かれており、まさに「葵祭」の情景であることがわかります。
さらにくずし字の読める方は挑戦していただきたいのですが、「賀茂祭縁起」の詞書を詳しく読んでみますと、もともとこの絵巻が鎌倉時代の文永年間(1264〜75)に亀山院(第90代亀山天皇[1249〜1305])が催した絵合(えあわせ・絵の美しさを競う遊び)のために製作されたものであることがわかります。
なおこの「賀茂祭絵巻」、「賀茂祭縁起(草子)」は多数の写本があり、この国会図書館所蔵の資料も写本です。これらの絵巻については、京都産業大学の所蔵作品(賀茂祭絵巻)を紹介されている所功先生の簡潔な説明がweb上に公開されていますので、ご興味のある方はご一読ください。
https://www.kyoto-su.ac.jp/lib/kichosyo/kamomatsurizousi/index.html
ちなみに今回「賀茂祭」と検索しましたら、明治24年5月15日の官報もヒットしました。その内容をみますと「賀茂祭延期」という記事。内容は簡潔で「今十五日賀茂祭ノ處御都合ニ依リ六月十五日ニ延期仰出サレタリ」とだけあります。
これだけでは、なぜ賀茂祭が延期となったのか分からないのですが、この日の官報の他の記事を読んでいるとその背景が見えてきます。お時間があれば、ぜひ探ってみてください。
今回ご紹介した《国会図書館デジタルコレクション》では、古典籍や近代の書籍、公文書など様々な資料を公開しています。
《Google art and culture https://artsandculture.google.com/》といった世界の2000以上のミュージアムでインターネット公開をされている文化遺産を見ることができるサイトなど、デジタルミュージアムは多数存在しています。
※本ブログの芸術学コースの記事(「【芸術学コース】ミュージアムの新たな動き―「おうちミュージアム」「おうちで浮世絵」について」2020年04月25日)もご参照ください。
本学在学生の皆さんには、積極的にこうしたデジタルコレクションを活用していただきたいと思いますし、一般の方にとっても、きっと興味を引く素材を発見する機会になるのではないかと思います。在宅での時間が多くなっている時期。こうしたインターネットを活用した学びを、ぜひ試みられてみてはいかがでしょうか。
※なおこれらの画像の利用については、著作権上の規定があります。今回提示した資料は「インターネット公開(保護期間満了)」のものです。詳しくは「国立国会図書館デジタルコレクション」https://dl.ndl.go.jp/ja/intro.htmlをご確認ください。
※また本文執筆にあたっては、辞書・事典・叢書サービスである「ジャパン・ナレッジ」を利用しています。有料となりますが専門性の高い辞典(国史大辞典、日本歴史地名大系、能・狂言事典、歌舞伎事典、古事類苑など)を利用できますので、歴史・文化遺産研究をなさる方の利便性が増すと思います。
「ジャパン・ナレッジ パーソナル」https://japanknowledge.com/personal/
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