「ライフスペシフィックな創作的表現」ってなんだろう? ― 鞆の津ミュージアムの活動[収穫祭 in 広島]

「ライフスペシフィックな創作的表現」ってなんだろう? ― 鞆の津ミュージアムの活動[収穫祭 in 広島]

edited by 京都芸術大学 広報課

通信教育課程では全国津々浦々に在学生や卒業生がいることを生かして、2000年度より在学生・卒業生・教員の交流と学びを目的とした「秋の収穫祭」という催しを開いています。その名のとおり、2018年度までは実りの秋に各地より厳選した4会場において実施されてきましたが、2019年度からは秋だけでなく1年を通して8会場で開催しています。

収穫祭では、全国様々な地域の特色ある芸術文化をワークショップや特別講義を通して紹介することや、公立私設を問わず美術館や博物館の社会への取り組みや発信、また開催中の展覧会を鑑賞することなどを行っています。

今回、6月4日に広島県福山市で行われた収穫祭について、担当した写真コース・勝又公仁彦教員からの現地報告をご紹介します。

健常/障がい という二項対立的な枠組みから距離をとり、人それぞれの幸福を成り立たせる創作的表現の多様さを共有する活動としての展示
広島県福山市の鞆町にある「鞆の津ミュージアム」の活動について学芸員の津口在五さんにお話を伺いました。演題は「ライフスペシフィックな創作的表現を伝える 鞆の津ミュージアムの活動について」です。なんだか聞き慣れない言葉が並んでいますね。

鞆の津ミュージアムは、「アール・ブリュット」と呼ばれる表現を紹介する美術館として2012年に開館しました。アール・ブリュットとは1945年ごろにフランス人画家のジャン・デュビュッフェによって提唱された「生の芸術」を意味するフランス語です。その解釈は様々ですが、「正規の美術教育を受けていない人による芸術」「既存の美術潮流に影響されない表現」などと説明されることが多く、英語の「アウトサイダー・アート」という名称がよく知られています。また、その中の一部分である「障がい者の表現」を指すこともあります。

それらと「ライフスペシフィックな創作的表現」とはどう違うのでしょうか?伺う前から興味津々です。

鞆の浦

レクチャーの会場となった鞆公民館は、国立公園第一号の瀬戸内国立公園の中でも格別の景勝地である鞆の浦に面しています。いきなり変なことを言うと思われるかもしれませんが、到着してすぐに入った公民館の横の公衆トイレには何故か麗しい琴の音が響いていました。それは日本に暮らしていれば、毎年お正月に、デパートなどの商業施設やテレビ・ラジオなどで耳にする曲です。なぜ、公衆トイレに琴の音が?しかも6月にお正月によく聞く曲??などと訝しく思うこと数分。私は思い出しました。ここ鞆の浦は箏曲「春の海」の作者宮城道雄の父親の出身地だったのです。宮城道雄は七、八歳の頃に失明し、音楽の道を志しました。既存の曲の演奏に飽きたらず、自ら作曲を行い、クラッシックなど西洋音楽と邦楽を融合させた「新日本音楽」創設の中心人物となり、教育者としても後進を育成しました。このように盲人からは琵琶法師や八橋検校、瞽女などが音楽や芸能の世界で歴史的に活躍の場を得、同様に文学ではホメロス、学問では塙保己一などの第一人者を輩出しています。

鞆の津ミュージアムの活動

「鞆の津ミュージアム」は社会福祉法人が運営するギャラリーです。そう聞くと心の病や宮城道雄のように身体に不自由のある方の作品を収集し展示するミュージアムのような先入観を持たれるかもしれませんが、実際にはそればかりではありません。もちろん、館内では母体となる障害福祉施設のメンバーさんたちが創作活動をしていることからもわかるように、そのような方々の作品や製品も扱うのですけれども、津口さんのお話によると、障がいのあるなしに関わらず、また有名無名も問わずに作家を紹介しているそうです。

そもそも「障がい」と「健常」の境界はスペクトラムなつながりの中でのグラデーションであって、豁然(かつぜん)と区別されうるものではありません。日常生活の中で何かをうまくできないことが、障がいの社会モデルで言われるところの4つの社会的障壁(物理的・制度的・情報的・心的)に起因されるシステムの問題である場合もあるからです。また、人は誰でも生来の特性や家庭環境など何らかの「困りごと」を抱えながら生きています。

鞆の津ミュージアムでは、このような認識を展示へと反映させるためのひとつの方法論として、作者の属性にとらわれることなく様々な人たちの暮らしに根ざした独学・自己流の創作物を紹介している、ということでした。そのようにして障がい/健常という二項対立的な社会の枠組みから距離をとることにより、私たちがお互いを他者化しないですむような文化へとつなげていけるのではないかとも考えているそうです。

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瓜生通信

https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/1020?fbclid=IwAR0TRxAkGwZNxC-PolqTCrFZKroIhYxtVHkQOpK9qLcQXDG7QSsqmkUZLPE

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