博物館で迎える「午」の年、里に降りる神々。静と動の文化遺産を巡る、ゆく年くる年

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年末年始特集の記事にあわせて作成したAI生成による画像です。実際の展示物とは異なります。

会員の皆様、一年間のご研究とご活動、誠にお疲れ様でした。 街が年末の慌ただしさに包まれる中、私たち歴史遺産を愛する者にとっては、静かに時を刻んできた文化財と対話し、自身の学びを振り返る大切な季節の到来です。

2025年の「巳」から、2026年の「午」へ。 今月は、東西の博物館で催される「午(うま)」にまつわる展覧会情報と、大晦日の厳寒の夜に執り行われる「来訪神」と「火」の祭礼、そして文化財を守るための大切な記念日についてご紹介します。

1. 博物館で紐解く「午」:神馬・武士・遊戯

博物館のガラスケース越しに見る干支は、単なる愛らしい動物ではありません。そこには、時代ごとの信仰や、人との関わり方が色濃く反映されています。まずは東西の国立博物館の展示から見ていきましょう。

  • 京都国立博物館:新春特集展示「うまづくし—干支を愛でる—」

    • 会期: 2025年12月16日(火)~2026年1月25日(日)

    古墳時代の「馬形埴輪」に見られる造形は、死者の魂を運ぶ役割を担った古代人の死生観を映しています。一方で、中世・近世の絵画に描かれた馬は、武士の権威の象徴であり、あるいは宮廷人の遊戯のパートナーでもあります。展示室では、馬の「目」の表現に注目してみてください。荒々しさから慈愛に満ちた眼差しまで、その変遷を追うのも一興です。

  • 東京国立博物館:「博物館に初もうで」

    • 会期: 2026年1月1日(木・祝)~1月25日(日)

    東博の新年は、国宝「松林図屏風」(長谷川等伯筆)(1月1日から1月12日までの展示)と出会える貴重な機会です。加えて、午年にちなんだ特集では、神と人を繋ぐ「神馬」や、名馬の意匠を凝らした工芸品が並びます。当時の職人が、馬というモチーフにどのような「機能美」と「装飾性」を共存させたか、その技術の粋にご注目ください。

2. 地域に息づく「馬」の記憶:全国の企画展より

「午」へのアプローチは、国宝や重要文化財だけではありません。地域の歴史や風土に根ざしたユニークな視点の展示が、全国各地で開催されています。帰省や旅行の際に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

  • 【岩手】もりおか歴史文化館:テーマ展「干支コレクション -午-」

    • 会期: 2025年11月19日(水)~2月16日(月)
    • 岩手といえば、かつての名馬の産地。地域特有の馬事文化や信仰資料から、「馬を愛で、祈る」・「馬を知り、育てる」・「馬と南部家」という三つのテーマで、人と馬の密接な関係性を読み解く展示を見ることができます。

  • 【三重】斎宮歴史博物館:令和7年度冬季企画展示「うま尽(つくし)~干支によせて~」

    • 会期: 2025年12月20日(土)~1月18日(日)
    • 伊勢神宮に仕えた斎王の歴史を持つこの地で、古代・中世において馬が果たした役割(移動手段、儀礼など)のひとつ飾り馬の埴輪やまつりの道具を見る事ができます。

  • 【鳥取】鳥取県立美術館:新年だヨ!全午集合

    • 会期: 2025年12月16日(火)~2月11日(水)
    • 2025年春に開館したばかりの新しい美術館からも、遊び心あふれる企画が届いています。新収蔵品を含めたコレクションの中から、どのような「馬」たちが招集されるのか注目です。

  • 【兵庫】日本玩具博物館:「馬の郷土玩具」

    • 会期: 2025年11月15日(土)~3月31日(火)
    • 美術工芸品とは異なる、民衆の生活の中から生まれた「郷土玩具」。木、土、紙などで作られた素朴な馬たちには、子供の健やかな成長を願う親の祈りが込められています。

3. 年越しの民俗行事:来訪神と浄火のエネルギー

博物館の中にある「保存された遺産」に対し、地域の人々によって脈々と受け継がれている「生きた遺産(Living Heritage)」の熱気もまた、この時期ならではの魅力です。

  • 秋田・男鹿のナマハゲ(12月31日)

    ユネスコ無形文化遺産「来訪神:仮面・仮装の神々」の一つ。大晦日の夜、「泣く子はいねがー」と叫びながら家々を回るナマハゲは、怠け心を戒め、無病息災をもたらす神の使いです。

    • 観光行事としての一面が有名ですが、本来は集落(コミュニティ)の結びつきを確認する厳粛な儀礼です。異形の仮面が持つ「畏怖」の力が、どのように地域の秩序や教育的機能を果たしてきたか。民俗学的な視点でその構造美を感じ取ってください。

  • 京都・八坂神社「をけら詣り」(12月31日)

    薬草「白朮(をけら)」を焚いた浄火を吉兆縄に移し、消えないように回しながら持ち帰る京の風物詩です。

    •  火という最も原初的なエネルギーを、現代の都市空間で「移し、運ぶ」という行為自体が奇跡的です。この火でお雑煮を炊くという一連の行為には、火に対する畏敬と感謝が込められています。

4. 文化財防火デーに向けて

冬は乾燥し、文化財にとって最も火災のリスクが高まる季節でもあります。 八坂神社での「火」の信仰に触れた後は、現実的な「火」への備えにも思いを致しましょう。

毎年1月26日は「文化財防火デー」です。 1949年(昭和24年)のこの日、現存する世界最古の木造建築物である法隆寺の金堂が炎上し、壁画が焼損しました。この痛ましい出来事を教訓に定められた日です。

1月下旬には、各地の社寺や博物館で放水訓練が行われます。初詣や展覧会へ足を運ばれた際、建物の軒下や展示室の片隅にある消火設備、あるいは避難経路の表示にも、ぜひ目を向けてみてください。 「遺す(のこす)」という行為は、日々の地道な点検と、危機管理の上に成り立っていることを再認識させられます。


寒さ厳しき折、皆様もご自愛いただき、良いお年をお迎えください。
2026年も、歴史遺産という尽きせぬ泉から、多くの学びを共に汲み上げてまいりましょう。

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