裏打ち

裏打ち ― 野村朋弘 #293

ここ2ヶ月ばかり、鎌倉や京都で史料調査をする機会を得ている。
文献を紐解き研究することを生業にしている身として、史料調査は何よりも愉しい時間である。私が専門としている古代中世史の文献史料の数は、世界的にみても群を抜いている。社寺や家の重宝として大切に保管され今日まで遺されている御陰で歴史像を復元することが可能になる。
こうした史料の形態は様々で、帳や冊子の他、巻子や掛軸、屏風に貼られたものもあるが、そのままの「うぶ」な状態で遺されているものもある。
但し、軸装までは行かずとも、「裏打ち」が施されているものが多い。
「裏打ち」とは〔空を描く165〕「神は細部に宿る」でも説明したが、紙や絹に記された史料や絵画作品の裏側に紙や布を貼り補強する、日本で確立した技術である。
この技術によって、史料は補強され命を長らえていく。

ここ2ヶ月ほどで調査した史料原本は僅か600通ほどに過ぎないものの、実見していると、多く裏打ちが施されていた。この裏打ちや表装は、時代によって千差万別である。史料そのものの内容とともに、どのように整理・保存されていたかを調べることは、とても重要な作業だ。それは時代によって、どんな史料が重要視されていたかを知る手がかりとなるからである。

史料の内容についての分析はもとより、料紙や糊の研究も日進月歩である。史料そのものが保存され継承されなければ、歴史学の研究は途絶えてしまう。裏打ちをはじめとする様々な技術に支えられてこそ、研究できるものだと、裏打ちの作業を拝見しながら改めて思った。

*アネモメトリー風の手帳ー【裏打ち ― 野村朋弘 #293】より転載しています。

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