【歴史遺産コース】歴史遺産フィールドワーク2(大原)

2022年09月16日

【歴史遺産コース】歴史遺産フィールドワーク2(大原)

歴史遺産コースでは、フィールドワークという現地での知見を活かして学ぶスクーリングを設けています。この科目にも、今年から全てネット(遠隔授業)だけで履修できるクラスを設けましたが、一方、仏像や普段見ることが難しい特別な拝観などを含むフィールドワーク授業は、画像でネット配信することはできないために、事前の動画配信授業と組み合わせる形で現地を実際に訪ねる体験型の授業となっています。

そうした授業のひとつである歴史遺産フィールドワーク2(大原)が、今回9月に行われましたので、ご紹介したいと思います。

🔗歴史遺産コース|学科・コース紹介

大原で最も歴史のある寺院 勝林院

この授業は、大原の諸寺院の本学通信教育への深いご理解によって、実にさまざまな計らいを頂戴している稀有なスクーリングとも言えます。

その内容は、授業の紹介の中でお伝えしますが、今回その一か寺のご住職様が、「こうした大原という地を学びの場に選ばれている京都芸術大学の先見の明は、たいへん素晴らしい」とのお言葉を頂戴しました。毎年の授業をコツコツと続けてきたからこそ、またそこでの学びが学生さんの中に受け入れられている実感を、ご住職様も受け取られたからの発話だったと思います。

さて、先ほども書きましたように、本授業は、オンデマンドの動画授業を、学生は先に自宅などで学習して、スクーリング当日に現地を訪れる形のスクーリングです。この方法は、実はコロナ対策によって生まれた授業形態なのです。かつては2日間(7、5講時分)を、大原で実施していたスクーリングでした。コロナ対策のため、現地での受講生の数を減らし、2日間の現地履修をを1日にするための方策でした。

そのため、現地クラスは土・日のどちらか1日を選択した上で受講することになります。今年は、9月10日(土)・11日(日)のどちらかを選んでいただきました。いずれもほぼ定員いっぱいの受講生に来ていただきました。

まず、オンデマンド版授業では、私、栗本の大原の平安時代から鎌倉時代の諸寺院の歴史をお話しする内容と、大原古文書研究会会長の上田寿一先生の近世近代の大原の歴史を、古文書や古文献を紹介しながら講義をしていただきました。

上田先生は、ついこの前のNHK「ブラタモリ」で大原の案内役でも登場されたのですが、地元に関わる歴史を、古文書、古文献を自ら紐解いて明らかにされて来た在野の研究者です。

いつも新しい成果を授業で披露していただき、大原の歴史を少しでも明らかにしていこうという意欲に満ちたお話をしてくださいます。

こうして、大原についての時代による歴史を学習した上での現地研修となります。

まずは、大原で最も古い寺院「勝林院」からスタートします。そしてその次に訪ねるのが「来迎院」。大原といえば、「三千院」とお思いの方が多いかと思いますが、じつは三千院よりも歴史の古い寺院として、「勝林院」と「来迎院」があることをぜひ知っていただきたいのです。詳しくは、授業を受けて学んでいただきたいと思いますが、この勝林院、来迎院ではそれぞれご住職にお出ましいただき、寺院の歴史のお話とともに、大原では欠かすことができない「聲明(しょうみょう)」を特別にお唱えいただきました。

勝林院本堂でご住職様のお話と聲明(しょうみょう)をお聞かせいただきました。

 

来迎院本堂でもご住職様の聲明(しょうみょう)をお聞かせいただきました。

 

聲明とは、音階や節、テンポの違いなども持つ音楽性の高いお経の音読です。馴染みのない方も多いと思いますが、グレゴリオ聖歌のようなといえばわかりやすいでしょうか。

特に日本歌曲の淵源は、この聲明にあると言われる通り、一度耳にすると、謡曲や民謡、御詠歌など、どこかで聞いたことのある音調が、聲明の中にあることがよくわかります。

平安時代12世紀に大原に住まいされた良忍上人が、天台聲明を大成されたことから、大原は聲明のメッカとも言われる場所となったのです。

初めて耳にした学生さんも多いのですが、お堂に響き渡る聲明の音律に感動したという感想を、たくさんいただきました。

来迎院にある良忍上人の御廟 鎌倉時代の石塔(重要文化財)

 

そして、もちろん三千院を欠かすことはできません。中でも平安時代の国宝阿弥陀三尊像が、礼拝する私たちの眼前に迫り来る存在感は、現地で拝観するからこその感動です。

三千院の往生極楽院 堂内の国宝阿弥陀三尊像が圧倒的な存在感で迫る。

 

そして、寂光院は、建礼門院德子がその晩年を送った庵で知られていますが、20数年前、寂光院本堂が、放火による火災に見舞われことは記憶にある方も多いと思います。この旧御本尊である鎌倉時代に造立された地蔵菩薩立像(重要文化財)は火災で焼損し、炭化してしまったのでした。

寂光院 山門の向こうに焼損後再建された本堂が見える

 

現在、本堂には新造された御本尊がお祀りされていますが、旧本尊は樹脂充填された上で、24時間空調の収蔵庫に保管されています。真っ黒に焼損してはいるものの、すっくと立った御姿をとどめておられるこの旧御本尊を、文化財の被災と保存のさまざまな意義を考える機会とするため、特別に拝観させていただいているのです。

この旧御本尊を拝観した学生さんは、これが守られてきた800年近くの時間と一度の火災で失うものの大きさを実感され、皆、胸が詰まるような心待ちになるとおっしゃっていました。

まだ日中は残暑厳しい気温でしたが、そろそろ秋の気配もただよう大原での学びの1日。受講絵師の方々には、多くの新しい世界を実感と共に受け取っていただけたのではないかと思っております。

寂光院境内 お寺の方のご案内で旧本尊のおわします収蔵庫へ

 

🔗歴史遺産コース|学科・コース紹介

*本稿は、2022年9月16日 京都芸術大学通信教育課程Blob 掲載の【歴史遺産コース】歴史遺産フィールドワーク2(大原)の記事の一部を編集して掲載しています。

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